【宙ごはん】 町田 そのこ 小学館
STORY
思いがこもった料理は人を生かしてくれる
ものごころがついた時から育ての「ママ」と過ごしてきた宙(そら)。
小学校入学をきっかけに産みの「お母さん」、花野と暮らすことになるが、
彼女は理想の母親像とは程遠く・・・
愛し方がわからない花野。
甘え方がわからない宙。
❝家族❞を手探りする二人には
記憶に残る食卓があった。
【宙ごはん】町田そのこ
小学館
宙の育ての親『ママ・風海』は花野の妹。
まだ幼かった宙にとって厳しくも深い愛情を注いでくれた。
産みの親『お母さん・花野』はイラストレーターとして活躍し、宙にとっては、時々会いに行く魅力的な憧れの存在だった。
その二人の間で「さいこーにしあわせ」だった生活は、小学校に上がるときから花野と暮らし始めたことで崩れ始める。
風海の愛情深さと対照的に、実の子なのに愛情どころかごはんすら作ってくれない花野との落差にショックを受けてしまう。
そんな中、宙を愛情深く見守って支えてくれたのは、花野の中学時代の後輩の佐伯だった。
佐伯は毎日のご飯の用意から、悩み相談まで本当の父親のように温かく包み込んでくれたのだ。
あることをきっかけに、佐伯が作ってくれたとっておきのパンケーキのレシピを教わったことで、宙は料理を教わりながらノートにレシピを書きとめつづける。
全5話に登場する愛情深い手料理とともに、心を揺さぶられるストーリーが展開される。
感想
本屋さんで装丁を見るのってたのしいですよね。
表紙を見るとき、食べ物の気配を感じるとついつい手に取ってしまう私。
【日比野豆腐店】も食べ物屋さんに惹かれて読んだのでした。
この本も、そんな感じで手に取りましたが、なかなかに重たいストーリーだったのです。
小さな子供時代、小学校に上がるまでの宙は、叔母に愛情深く育てられ、従妹と共に当たり前の温かい時代を過ごすことができました。
短いながらもそんな幼少期を過ごせたということが、この物語の唯一の救いでしょうか。
その後の人生は現実にはちょっとあり得ない(世の中には色々な人生があるのはわかるけど)ある意味すごいファンタジーの世界が繰り広げられていきます。
娘のために何のお世話もしない母親にも、育った環境による多大な影響があり、それはそのまま実の娘にも影響を及ぼしてしまいます。
世の中には複雑な家庭環境があふれている中、理解はできるけど共感は難しい。。
そんなストーリーの中で、ほっとできるのは佐伯との時間です。
父親の後を継いでレストランを経営する傍ら、宙のことをずっとそばで気にかけて、『ふわふわパンケーキのいちごジャム添え』を作ってくれるシーンはこの物語の中でとても大切で、まるで映画のような描写が素晴らしいと思いました。
その景色が見えるのです。
磨き上げられたキッチンの景色。
料理の音や、光や、匂いまでも。
文章で表現するってすごいなぁ。
この物語の真髄は、宙の成長だけでなく、母親である花野の成長でもあります。
愛情がないわけではないのに、どうやってそれを表現したらいいのかわからない花野ではあるけれど、色々な状況の変化の中で、宙と佐伯の愛情を受けながら人として母親としてどんどん自分の殻を破っていく姿は、重たいだけではない清々しい気持ちとなり、町田そのこさん、すごいです。
一気に読めてしまったのに、長い長い時間を過ごしたような気持ちです。
心がすり減りそうなシーンもあるけれど、読み終わって思ったのは
面白かった!!
私の人生の色んな場面には、母が心を込めて作ってくれた料理がありました。
それは、子供だった自分にとって、温かくて幸せだけど、本当に当たり前の日常でした。
自分の知っている当たり前をベースに、今、自分の家庭を築き子供たちに料理をする毎日です。
育った環境が、その後の人生にどれほどの影響を与えるのかは人それぞれかもしれませんが、両親が自分にくれた愛情は今もずっと私の根っこになって支えてくれているのは間違いありません。
そして、一緒に過ごした時間は、物事との向き合い方や考え方にまで少なからず影響を与えるものなんだと思うのです。
ただ、人が成長するとき、影響を与えるのは両親だけではない。
その時々の周りにいてくれる人たちがくれるものがたくさんある!
そんなことをすごく思う物語でした。
町田そのこさん。実はこの本が初めてでしたが、女性作家ならではの視点や描写が面白く、ほかの物語も是非読んでみたいと思います。