【ラブカは静かに弓を持つ】 安壇 美緒 集英社
STORY
橘樹(たちばないつき)は幼いころ、チェロ教室の帰りに事件に巻き込まれそうになって以来、真っ暗闇の深海の夢を見ることで不眠に悩まされていた。
ある日、著作権管理団体『全著連』に勤める橘は、著作権法の演奏権侵害の証拠をつかむため、上司から音楽教室への潜入調査を命じられる。
橘はチェロにトラウマを持ちながらも、音楽教室に身分を隠しながら、2年間という期限付きで通い始める。
チェロ講師の浅葉と、そこで知り合えた仲間たちとの時間がかけがえのないものへと変わっていく中、自分の任務を隠していることへの罪悪感に押しつぶされそうになる。。
心に響く “スパイ×音楽”小説!
【第6回未来屋小説大賞受賞】
【第25回大藪春彦賞受賞】
【第20回本屋大賞第2位】
この物語は、近年最高裁で判決が出た実際にあった裁判が題材となっています。
ヤマハなど約250の音楽教室運営団体が日本音楽学著作権協会(JASRAC)を相手取り、教室で楽曲を演奏する際の著作権料を徴収する権利はないということを求めたものです。
この結果、著作権使用料の対象となるのは、教室で講師が演奏する楽曲のみが著作権の対象となり、生徒の演奏に関しては生じないとする判決が出ました。
この裁判で、JASRACは、音楽教室に潜入捜査させていた職員に調査内容を証言させたという事実をもとに物語は作られました。
物語の主人公、橘樹(たちばないつき)は、過去のトラウマを引きずりながらも、音楽教室に潜入捜査するために、もう一度チェロを弾くことで自分の内面と向き合っていきます。
教室で出会ったチェロ講師・浅葉桜太郎(あさばおうたろう)にマンツーマンで指導を受けるようになるのですが、2人の心理描写が実に繊細かつ深く面白いのです。
音楽を奏でることができる人には、人の心の機微が見えてしまうのでしょうか。
浅葉は、橘の隠していることは知らないはずなのに、読者がハラハラしてしまうような鋭い観察眼を持っていたり。
そして、物語の中にいると、楽器を弾くということの奥深さにも興味がわいてきます。
ただ楽譜をなぞるのではなく、想像力を総動員してイメージを膨らませることで、同じ曲が人によって全く違うものになってしまう。文章を読んでいるのに、聞いたこともない知らない曲なのに、音楽の中にいるようでとても不思議です。
橘は、潜入捜査で通っているため、教室に入る前にボールペン型の録音機のスイッチをいれます。
その緊張感たるや!いつかバレてしまうんじゃないかと、ドキドキしながらストーリーは進んでいきます。
浅葉や、仲間たちと音楽を奏でる中で、心の深海の暗闇の中に射す一筋の光と、自分の身分を偽り続けなければならない主人公の絞めつけられる心の内が読み手に突き刺さってくるのが苦しい。
そして…人は外面は偽れても、内面までは偽れない。
2年間という月日の中、任務とはいえ懸命にチェロを弾いてきた主人公と仲間たちの関係はどうなっていくのか。
やっぱり音楽には不思議な力があるんですね。
ところで。
読み終えるまで、てっきり著者は男性だと思っていたわたし。(表紙も見ていたのに。。。)
スパイ×音楽という異色の組み合わせと、登場人物の人間模様、言葉の選び方からでしょうか。
読み終えたあとの、爽やかな達成感がいい意味で女性作家っぽくないなと思ったのは私の個人的な感想です☆
どっぷりとスリルと音楽の世界に浸ってしまう!!
是非読んでみてくださいね。
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